さて、エアーズロック滞在二日目はキングスキャニオントレッキングです。行ってみてから気づいたのですが、このエアーズロック滞在、かなりハードです。集合時間は4時がザラで、毎朝暗いうちに起きてバスに乗り出発、移動とトレッキングの連続、しかも気温は35度超え。しかしですよ。ちっともつらくない。だってこの景色、そうそう見られるもんではありませんから! この、日常的に早起きができる人に憧れ続けて数十年のわたくしですが、ご多分に漏れず、楽しい日はちゃんと目が醒めるのでありました。
この日も集合は朝4時。まだ夜ですよ。暗い中、ごそごそと二段ベットの二段目で身支度を整え、荷物を持ってドミトリーを出ます。集合場所には顔見知りになった人たちが何人もいて、前日仲良くなったジョッキー君も一緒に出かけます。とはいえ、バスの車窓も真っ暗。席についた途端に睡魔に襲われ、そのまま心地よく記憶なくバスは走ります。
1時間ちょっとしたあたりで目が醒めると、夜が明けそうな薄暗い砂漠の景色が見えました。うっとり。キングスキャニオンまでは3時間ほどかかるのですが、どれだけ走っても走っても、景色は変わらない。オーストラリア・アウトバックの広大さを実感します。ただひとつ変わりゆくのは空の色と体感温度。太陽が昇るごとに周囲は光に溢れ、気温は容赦なく上がっていきます。まあバスの中は心地よくクーラーが効いているので良いのですが。
1時間ちょっと走ると、バスはドライブインに到着しました。ここで朝食です。小さな小屋の中で、決して豪華ではないですが、でも十分なビュッフェの朝食をいただきます。いただきながら、スタッフが何やら紙を持ってきました。それは、各国後で書かれた「同意書」。よく、バンジージャンプやスカイダイビングの時にサインをするという、「これで死んでも自己責任」というアレです。ええっ、まさか、そんな大それたトレッキングなの?! それもそう、太陽の熱でクラクラしながら、かなり切り込みが激しい峡谷を歩くわけです。手すりやロープなんてない、ただの崖っぷちを歩いたりするのですから、同意書にサインが必要ということですね。それが嫌なら、登らないでゆるやかなトレイルを歩くコースも別途用意されているとのこと。この後、トレッキングが始まってから、「やっぱり私には無理だわ」と判断されたおばさまが、そちらの迂回コースへ順路変更されていました。いや、でもよ。命の危険は山ならどこでもあるわけで、ここまできてキングスキャニオンを歩かないっていう選択はないわけですよ。はい、堂々とサインさせていただきました。
その後、スタッフから「水チェック」が入ります。キャニオンは本当の大自然で、途中に売店なんてないのです。脱水症状になったら一巻の終わりなので、事前に「水は2.5から3リットル」持ってくるようにと言われていました。お安い御用ですよ。なにせ私は、キリマンジャロで1日3リットルを飲む練習を半年続けた女。水の準備には怠りなく、1リットル2本、500ml2本に加え、350mlのゼリードリンクまで持っています。ジョッキー君は少し足りなかったとのことで、ドライブインの売店で水を買ってこいと追い立てられていました。
再び出発です。といってもやはり車窓の景色は同じ。そしてここらへんから、運転手さんがマイクを通して弾丸トークを始めます。まるでDJのように、ずーっと、ずーっと、オーストラリアの自然やウルルの話なんかを、それこそずーっと話し続けます。いやすごいわ。日本ではもちろん、さまざまな国で長距離バスに乗ってきましたが、こんなノリの運転手さんは初めてよ。DJドライバーは、BGMに乗せても歌っちゃったりします。このバスの選曲はちょっと古くて、「スティンアライブ」なんかがかかったりするのですが、「おー、おー、おー、おー、スティンアライブ、スティンアライブ」なんて裏声バリバリで歌い上げてくれたりします。おかげて退屈しませんでした。あっぱれです。
キングスキャニオンに到着したら、トイレに行って、いよいよ出発です。赤土のトレイルを歩き、岩場を登り、峡谷の間を抜ける。ここはハエが半端なくすごかったです。前を歩く人のリュックが黒い水玉かと思ったら生えだったりするわけよ。このハエ、人間の皮膚や粘膜の水分が目当てなのだそうで、特に口に入っても害はない種類なのだそう。私はあんまり気にしなかったですが、木になる人は専用のネットを買ってかぶったりしていました。このネットがまたなかなかのお値段でねぇ。世知辛い世の中です。
ハエにたかられながら、歩く歩く。本当に断崖絶壁のそばを歩きます。しかし、調子に乗ってそこで写真なんかとっていると、ガイドさんからしっかり怒られます。同行グループの中に、おしゃれ女子が2名ほどいて、いわゆる「インスタ映え」する写真をとりあっていたのですが、何度も何度もガイドさんから注意を受けて、しまいには、偶然そのそばにいた私は「あなたからも彼女に言ってくれ」と言われてしまいました。いや本当に足をちょっと踏み外したら一巻の終わりだけではなく、きっとガイドさんも責任取らされるだろうし、何よりもトラウマになっちゃうよね。みんなキングスキャニオンではくれぐれも気をつけてね。
トレイルは3時間。お水もたくさん飲んで、写真もたくさん撮って、景色も堪能し、運動もし、という充実の時間でした。
昼食を食べてから、帰りも同じ景色の中、DJ運転手さんのトークを聞きながらバスで帰ります。途中、また別のドライブインに立ち寄ったのですが、そこで買い食いしたアイスの美味しかったこと。「マグナム」という、インドネシアでもよく売っている、いわゆるチョコにコーティングされた棒アイスですが、久々のジャンクフードという感じ。
このドライブインでは、アボリジニの方がたくさん座っていました。ここウルルはアボリジニの聖地であるとともに、居住区でもあり、勤務地でもあります。ガイドさんのわかりやすい説明によると、白人に発見されたウルルは、観光地化されるも、1980年代にもともと原住民として住んでいたアボリジニに返還され、さらにアボリジニから観光資源としてオーストラリア政府が借り受けている、という複雑な入れ子状況にあるとのこと。なのでアボリジニさんたちは、ここで生活を営んでいるわけです。「アボリジニ」という言葉は知っていても、どんなルーツで、現在どんな状況で、なんてこと、恥ずかしながら知らなかったのですが、こうやって新しい土地を訪れることで、「実感値」としての認識が生まれる、という旅の幸せを、またひとつ噛みしめることになりました。
旅ができるということは、幸せなことなんだなあと思うわけですよ。
この日の晩御飯は、友達になった人たち四人で、ドミトリー併設のレストランでバーベキューディナーをいただきました。またもやオージービーフにカンガルー、今度はワニ肉やエミューのソーセージまで! 残りあと1日となったウルルそしてオーストラリア滞在を前に、最後の豪華?ディナーを120%楽しめました。