「希望の灯り」Bunkamura ル・シネマにて。
ベルリンの壁崩壊後の旧東ドイツのスーパーマーケットが舞台。不器用で無口で、たぶん現実に近くにいたら、正直ちょっとイラっとしてしまうような主人公の男子が新入りで入社。おっさんやおばさんの上司や従業員は、過剰に立ち入るでもなく、親身になるでもないのだけれど、その「過剰じゃない」関係性が絶妙にソフトすぎずハードすぎず心地よい。たとえば、主人公がちょっとドンくさい行為をしてしまった時に、同僚はその瞬間には文句を言うも、直後には名を名乗って主人公の軽く肩に触れる。ニコリともせず。そう、なんだかこの映画は、途中で出てくる恋の相手以外は「ニコリ」ともしないのだ。ただそれが、大きく時代が変わった後の取り残された感と、アウトバーン沿いの空も土地も広い場所の空気にマッチしている。。
主人公は若いのだが、過去にいろいろやらかしていて精神的にたそがれていて、ちょっと恋しちゃったり、おっかなびっくりでありながらも大胆な行為に及んだり、もし自分が恋の相手だったら少し気持ち悪いなと思ってしまいそうな風情なのだが、周囲はちょっとした忠告をしながらも彼を常に「肯定」する。主人公のことも、恋の相手のことも、そして後半に衝撃的な最後を迎えてしまう近しい上司のことも、映画は細かく教えてくれない。その、わかりすくなさが、大人の映画だと思う。あまりに難解で理解できないのもアレだが、私は個人的にわかりやすすぎる作品は映画であれ小説であれ、その強く示される方向性に窮屈さを感じてしまうタチだ。その窮屈さがひとつもなく、柔らかいわかりにくさに解き放たれたような作品だった。
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太陽の光が届かない、倉庫のような広々とした店内は整然と並べられる豊富な商品。蛍光灯の明るい空間は、私が最も興味を持つ激動の時間を歩んできた東欧の人々の日々の営みに少しだけ触れられる2時間であった。この映画を観られたことを幸福に思う。