安達太良山に登ってきました。今年2度目の雪山登山です。(トレッキングも含めると3回目)
3月11日は五年前に震災があった日。私はその同じ年に、手術を要する病気をしたので、大きな意味をもった登山ではなくも、歩きながら静かに、自然に、色々なことを思い出す日となりました。とてもナチュラルな形で、この日を過ごせたような気がします。
まずは7時半に都内出発。その週は、月曜日に日帰り出張、火曜日はライブに出かけ、水・木は月曜日のまとめと前の週から持ち越した仕事とで深夜作業となり、ジェットコースターのような日々でした。なので開放感もひとしお。バスの中でうとうとしながら、二本松に向かいます。
私は実家が東北にあるので、帰省のルートということもあり、それほど遠くに出かける印象はなかったけれど、同行の東京の人たちにとっては大遠征のよう。私にはなじみ深い東北名物のお土産を珍しそうに見ている姿を眺めると、ものごとの距離感てやっぱり主観でどうにでもなるんだなーと思ったりしました。(ちょうと、じゃんぽ〜る西さんのフランスの漫画を読んでいて、人との距離感について考えているところだったりもして)
安達太良山の登山は、スキー場から始まります。今回は安全のためにヘルメットを装着。靴もレインウェアも借り物で済ましたため、後で写真を見ても一瞬自分だと自覚できません。
スキー場からは、軽めの音楽が流れていますが、歩いているうちにそれがだんだん小さくなっていくと、山に分け入った自覚が出てます。世俗から離れたところに入り込む感覚が、なんともいえず今週の忙しい日々からの逃亡にも重なります(笑)。
雪はさらさらなので、アイゼンは装着せず。しばらくの間、雪の坂道を登ります。安達太良山は風が強いことで有名だそうですが、なんと無風&快晴。頭上には冴えた青空が広がっていて、非常に気持ち良い。かつ、歩いていると暑くなり、途中で服を脱ぎました。あったかインナーとメリノウール、その上にレインジャケットのみという軽装です。ヘルメットの下のフリースの帽子やネックウォーマーも外して、これでやっと涼しくなったわ〜なんて、お天気のおかげて余裕の雪山登山です。
坂を上りきるとこんどは平坦な道が続きます。遠くに、安達太良山の頂上「乳首」が見えました! 雪山登山は厳しく危険だけれど、こんな景色を見ちゃったらやめられないよなーと思わせられます。はい、ワタクシは、インドには一人で出かけても、高い山には一人で出かけませんのでご安心を。(生命保険には入らないけどアウトドア保険にも入っているよ)
そして雪の中をしばらくトラバース。斜面をゆっくり横断していきます。一歩横に足を滑らせたら転がり落ちそうですが、岩もないのところなので落ちても雪に埋まるだけ。とはいえ落ちるとそれはそれで面倒なので、慎重に足を運びます。
しばらくすると、本日の宿、くろがね小屋が見えてきました!
くろがね小屋は、これまで泊まったどの山小屋とも違う、物語に出てくるような感じの「山小屋」。一階がダイニングで二階がお部屋。真ん中が吹き抜けて、お部屋も扉や壁はなく、非常に開放感のある雰囲気。そしてなんと、温泉付き! この温泉、濁っていてぬるぬるで、湯の花がたくさん身体につくタイプの、塩分入りの強いお湯。歩いてぽかぽかしているとはいえ、気温は低いので身体はすぐに冷えてきますが、この温泉に入るとしばらくは身体が温かいままキープできます。安達太良山はふもとに岳温泉という温泉街がありますが、この山のお湯を引いているとのことで、下で入ると薄まっていると聞きました。5、6人でいっぱいになる湯船だけで、洗い場はなし。硫黄の匂いが翌日も身体からするくらいに、十分堪能しました。
夕食はカレーライス。野菜がゴロゴロ入っていて、美味しい! もちろんおかわりしましたぜ。夕食のあとはお風呂にもう一度入ったり、ダイニングで語らったり。お誕生日の方がいらっしゃったので、ケーキでお祝いもしました! 8時頃には部屋に戻って布団に入ると、私はそこから翌朝の5時まで熟睡。実に週の寝不足を取り戻す爆睡。山に行き始めは、山小屋の雑魚寝で、周囲の音(いびきや鼻をすする音)が気になってほとんど眠れない・・・というデリケートなところがあったのですが、今や耳栓とアイマスクさえあればどこでも熟睡できる身体に成長しました。自分がサバイバル的にランクアップしていくのは快感です。
夜に外へ出てみたら、月も星もなく、空に雲が広がっていたのですが、朝方は晴れて星が出ていたそう。熟睡したおかげで見逃してしまいました。が、朝日が山の間から登るところはばっちり見えました! 雪に太陽が映り込んで染まっていく様子は、なんとも言えない神懸かり的な美しさです。
朝ご飯もちゃんと食べて、支度してさあ山頂に向けて出発です。夜の間だけ曇っていたようで、なんと二日目も快晴。雲ひとつない青空の下、雪山を登っていきます。なんかもう、違う星にいるようだ。キリマンジャロのときにも思ったけれど、日本の雪山も、また違った異界感があります。
雪の中を登り、トラバース。今度の斜面はけっこうきつくて、注意が必要ですが、天気のおかげで先が見渡せるから安心して歩けます。ここで吹雪やホワイトアウトしたら本当に危険。ましてや単独だったらと、想像するだけでちびりそうです。
雪の中をどんどん歩き、頂上のふもと?に到着です。ここからは、12爪のアイゼンをはいて歩きます。それほど必要に迫られたわけではないけれど、持って来たのだからせっかくだし履いてみましょうということで。はじめての本格アイゼンをもたもたしながらつけられるのも、快晴ならではです。これが強風・極寒だったら・・・やっぱりちびりそうです。
頂上に登るところだけは急な登りで、足を踏みしめながら登ります。そして頂上! 雪に染まった美しい尾根、稜線が見えます。木々が生えているところはおとぎ話に出てくる景色のよう。ムーミン谷ってこんな感じかと乙女なことを考えました。
登りの途中から、遠くに雲が上がってきたのがわかりました。そこに向けて降りていくので、当然途中で何度か霧に包まれました。しかし流れは早く、振り返ると青空が見えているという不思議な風景。智恵子さんが「ほんとうの空」といった空を、十分堪能することができました。ちなみに、「東京には空がないから安達太良に行くわ」と言っても、若者くんたちには「何スカそれ」とキョトンとされる今日この頃。今の教科書には載っていないのでしょうか・・・私の時代には暗唱させられました、高村光太郎の詩。
下山後は、再びふもとの温泉に。やっぱりお湯は薄かった! でも十分あったまり、スキー場のレストハウスでカツ丼なんか食べちゃって、バスでは爆睡し、渋滞にも巻き込まれずに帰着するという、ハッピー極まりない二日間でした。雪山シーズンは終わりに近づきましたが、今年は雪山デビューを果たせたことが、とっても幸せです。良い仲間に恵まれたことに、本当に感謝です。
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