高度順応を終え、いよいよ未到達の高度へと登る日となりました。
私の人生最高到達地点は、チベット青海鉄道の唐古拉峠、5072m。ただし、列車から下車はしておらず、窓から外を眺めながら通り過ぎただけなので、実感値はありません。言ってみれば、飛行機のトランジットで立ち寄った空港がある国みたいな位置づけで、自分が「存在した」とは言えませぬ。
自分でちゃんと登り、その場に立った最高地点は、マレーシア・キナバル山4095m。この日はいよいよ、その高度を超えるということで、ワクワクしていました。
二日間滞在したベッドを片付けて、いよいよ出発です。ハット後方にある砂利の坂道を登っていくと、ホロンボハット全景が見えました。山小屋は、上に行くほど人が多く、どんどん雑多な雰囲気になっていった気がします。上に行くほど緑が少なく埃っぽくなっていくのも一因だと思いますが、なんとなーく、自分も含めてそこにいる人たちが、やや「むきだし」になっていく気がしました。
ゼブラロック行きの時に眺めていたジャイアントセネシオの群生を横目に歩き続けていくと、どんどん緑が減っていくのがわかります。草木も乾燥してくるし、どんどん視界が空の青と地面の茶系に浸食されていきます。
坂を登って降りて、が何度かありつつも、ずっとずっと、だだっ広い、乾燥しつつある場所を歩きます。途中、ヘリポートがありました。これは世界で活躍するスポーツ選手が作ったものだとか。それを抜けると、水場があり、「LAST WATER POINT」と書いてあります。私がアドバイスをもらっていた先達の女性は、「お水はそこらへんで汲んできたものを飲んでいた」と仰っていましたが、こういうところの水を活用していたんですね〜。そのときも、他の登山者が何人かが水を調達していました。本当にストイックな旅なら厭いませんが、私の目標は「登頂」なので、できるだけそれを脅かすリスクは下げていきたいところ。おなかを壊しては元も子もありませんので、味見も控えました。
さて、最後の水場を超えると、もうそこは砂漠。「火星みたいな道を歩く」と話に聞いていましたが、本当にそんな感じ。見渡す限りの茶色い地面に、広い一本道がずっと続いている風景は「アフリカの道」そのもののイメージどおりです。ホロンボハットから遠くに見えていたあのキリマンジャロ山頂へのこんもりとした山が、眼の前から左手側にいくまで、ずっとずっと見えています。
草木がなくなる→視界を遮るものがない→そこで苦労するのがトイレポイント探しです。前述のとおり、ダイアモックスと大量の水を飲み続けているわたくしたちは、当然トイレとお友達。トイレがなくてもお尻が隠せるポジションがあれば、素晴らしい景色を眺めながらの用足しはバッチ来い、なのですが、ここに来ると、大きな岩を見つけたらとりあえず済ませておくのが得策です。とはいえ、最後のほうは、もうどこかからは丸見えでしか場所がなくなり、まあもうこんな風景珍しくもないでしょ、と開き直ることができますわ。健康第一、生理現象万歳です。
お昼ごはんはマウェンジ峰とキボ峰(目指す頂上があるところ)に挟まれたポイントでいただきました。ここでも温かい紅茶をガラスのコップで出してもらい、ランチボックスをいただきます。この日は、いつものチキンとケーキの他に、ポテトチップスやピーナッツの小袋(工業製品ではなくビニールでパックされたもの)が入っていました。全部は食べられないので、同行の方と一緒にひとつ開けて味見をしましたが、塩がきいていてすっごく美味しかった。チキンも一日目よりもずいぶん柔らかく食べやすくなっていて、また食欲旺盛にパクパク食べてしまいました。隊長曰く、ここまできて、(高山病症状にあるように)食欲が落ちないのは珍しいとのこと。えーだって美味しいじゃないですかーと論点のズレまくった返事をする私。ほんと、今考えても普段の生活よりも身体のコンデションはよかったです。
ごはんを食べたら再度出発。もう遠くにキボハットの緑の屋根が見えているのですが、なかなか近づいてきません。この現象は、ホロンボハット以後ずっと続くのですが、あまりに周りに何もなさすぎて遠くにあるものが見えるのに、全然近づけない。こういったことも、4000m超えの世界ならではだと思います。
そんな中、ガイドさんの一人(後でとってもお世話になる一人)が、ずっと軽快なアフリカン・ミュージックをポータブルスピーカから流してくれていて、一緒になってリズムをとったり、呑気に歩きました。
そんなこんなで、キボハット4720mに到着しました!
緑がひとつもないこの山小屋は、これまでのところとはまるで別世界。とっても大勢のポーターさんガイドさんが地べたにしゃがみ、くつろいでいます。山小屋もこれまでのような、一人ひとつベッドではなく、狭い建物の中に上下段のベッドがどんと押し込まれていて、そこに雑魚寝状態です。そして寒い。トイレは変わらずきれいでしたが、ちょっと遠くて、さすがにここまで来るとトイレに行くだけで息が切れます。まずは荷物を整理して、深夜の登頂アタックの準備をし、ティータイム。似たような建物が多くて、道に迷ってはそのへんにいる人に教えてもらっていました。
そんな中、挨拶の言葉を教えてもらいました。ご存知のとおりスワヒリ語でコンニチハは「ジャンボ」で、すれ違う人とは「ジャンボ」と言い合います。しかしその後「マンボ」って言う人がいるのです。トイレの前にいた男性に「マンボ」と言われ「マンボ」とマネして返したら、「違うよ〜マンボの返しはポアだよ!」と教えてもらいました。語呂合わせの一種かと思っていましたら、帰国後調べてみたところ、これスワヒリ語で「元気?」「ええ!」の意味だったんですね。私はどこかの国を訪れると、ああここの言葉を勉強したいと思うたちです。いつかスワヒリ語も片言で良いから知っていきたいものです。
イッテQのイモトアヤコさんが、この道を歩いている映像を、帰国してから見ましたが、非常に苦しそう。イモトさんは食事もこちらの郷土料理のようなものを食べていたし、高度順応日もないみたいだったので、大変だったと思います。もちろん体力とバイタリティのある彼女は元気に登頂していましたが、このキボハットへ続く道も、コンデション次第ではつらい時間になったのでしょう。幸いにも私は、息苦しさも感じず、写真を撮り仲間としゃべり倒しながら水を飲み、てくてくと楽しく歩くことができました。これもそれもサポートしてくれたポーターやガイド、パーティのみなさんと隊長のおかげで感謝しかありません。
#13 ガイド&ポーターのこと
#14 Day5 登頂アタック5895mへ
#15 Day5 頂上からのハードな下山
#16 Day6 さらばキリマンジャロ
#17 アルーシャへ移動
#18 Day7 サファリ〜帰国へ
#19(最終回) 持ち物いろいろ
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