さて、ディープすぎる蚤の市を後に、再びトラムに乗り込んで、旧市街へ向かいました。
とはいえ、前回書きましたように、コウォバザールそばのトラムステーションの券売機は封鎖されていて、我々は切符を買うことができません。切符はトラムの運転手からも買えるとの情報を持っていたので、とりあえずはトラムに乗り込んで、プラスチック板の向こうにいる運転手さんに「切符を買いたい」自己主張をしてみました。
しかし、当然ながら運転中は対応しちゃダメなようで、次の停車まで待てと。ここで検札にあったらまんまと無賃乗車ですから、ややドキドキしました。しかし信号停車で、やや慌てた運転手さんから切符が差し出され、無事解決。今はあんまり車内で買う人がいないのでしょうか、それとも突然の平たい顔族からの要求にあせっちゃったんでしょうか。ごめんね、運転手さん。ちなみに運転手さんから買う切符にはあまりバリエーションがなく、選択肢のないまま二時間券あたりを買ったと記憶しています。受け取って、打刻して、ああ安心。
旧市街のそばにトラムステーションがなかったので、地図上で最も近距離にある駅で降りました。ここから旧市街まで、ちょっと歩くのですが、いやこれがまた、知らない道だから遠く感じて、とにかく寒い! 普通は歩いていると体温は上がるものだけど、ここワルシャワの10月末の場合、身体は冷えていく一方。そして日曜日ということもあり、やはり朝9時前はあまり人が歩いていなくて、閑散とした道を歩き続けます。でも旧市街に続く小道は古いヨーロッパの雰囲気が漂っているし、公園は真っ黄色に紅葉していて美しいし、まるでアントワネット様が出てきそうな宮殿が急に現れるし(あ、フランスじゃないけど。ほら、私たちの世代はヨーロッパの歴史はベルばらで学んでいるからさ)。とにかく寒くとも、歩き飽きることはありませんでした。
公園を抜けると、裁判所がありました。天秤のマークが掲げられているので裁判所だということはわかるのですが、なんだかキースヘリング風味のペガサス? 馬? のようなカラフルなインスタレーションが、どーん、どーんといくつも置いてあります。
このポーランドの旅の間、壁画やインスタレーションを色々と目にしたのですが、どうにもこうにもそにのセンスにちょっと違和感が。ここ、ポーランドは、世界一退屈なボードゲーム「コレイカ(行列)」を発売した国。社会主義時代の配給を受けるために行列していた際の「退屈さ」「理不尽さ」をテーマにした、聞くだけでもつまんなそー・・・なそれは、世界の物好きたちに愛好され、日本語版もあったんですって(ロシアでは発売禁止!)。コレイカにはとっても興味があるし、それをゲームにしちゃうのはセンス抜群だと感じていたのですが、どうも壁画やインスタレーションは「?」と思ってしまうもの多し、でした。
裁判所の向かいには、ワルシャワ蜂起記念碑があります。ブロンズでできた人たちが、銃を手に飛び出してきたところは臨場感たっぷり。
ちなみに、ワルシャワでもクラクフでも、歩いていると「あれは何?」というものがそこかしこにあり、近寄ってみると、蜂起に関係するもの、ホロコーストやカティンの森事件に関係するもの、ってことが多かったです。ドイツとソ連という大国の動きに翻弄されまくった歴史について、多少なりとも勉強しておいてよかった。ひとつひとつを見ていくうちに、歴史は授業や物語として取り上げられる過去の記録の一部ではなく、ひとつひとつがその土地、その人々にとって、今生きている私たちと同じ人生、同じ生活の中に、突然ぶっこまれた異常な出来事だったということを、認識させられていきます。そういう意味で、やっぱり興味を持ったなら「そこに足を運ぶ」ことが最も重要だと思うです。私たちの国は島国で、ヨーロッパ間のように気軽に隣国へは行けない環境だし、お金や環境の事情で動けないということもあるけれど、それでもすべての出来事は遠い国の遠い昔のことではなく、明日我が身に起こりうる異常事態と捉えることって、最重要だと思うです。
さて、そのまま歩いてバルバカンに到着です。バルバカンは旧市街をぐるっと取り囲む城壁です。15〜16世紀に使われたものですが、第二次世界大戦で破壊されたものが復元されています。ちなみに、ワルシャワは、大戦で破壊されつくされたのですが、戦後、市民の手により「煉瓦のひびひとつに至るまで」修復されたことが知られています。なんかもうね、こういうスケールの話をわんさか聞いていると、日々の生活の中で何かがちょっとうまくいかなくてクサクサすることなんて、そよ風がふいただけのことでしかないと思い知らされますわ。
さて旧市街に入って最初にしたかったことは・・・あったかい飲み物をいただくこと。だってもう、骨の髄までガチガチに凍っちゃったんではないかと思うくらい寒かったんです。
でも、お店が開いていないんです・・・ほとんどが準備中。しかし一件、ザビエカンカの看板が出ているお店の中で準備しているお兄さんが、「開いてないですかー・・」という風体で中を覗き込む我々に、入って入って、というリアクションをしてくれました。う、嬉しい。明らかに準備中なのに、席に座らせてくれ、メニューを見せてくれました。すでにポンチキの朝ごはんを食べてきた私たちですが、ずいぶん歩いたのでお腹もちょっと空いています。ということで、ザビエカンカとスープ、ホットチョコレートを頼みました。
ザビエカンカとは。長〜いパン(バケットよりも柔らかめ)を縦に半分に切って、その上にひき肉やチーズをのっけて、ケチャップをかけたもの。長いピザトーストのような、ポーランドのファストフードです。これは想像以上でも以下でもない味でしたが、スープは名前がよくわからないので当てずっぽうに選んでみたところ、よく煮込まれたもつが入った、ちょっとすっぱいスープで、これがめちゃくちゃ美味しくて。寒かったのも理由のひとつですが、もうポーランドではスープなしで食事が成り立たないとすら思っちゃいました。ホットチョコレートはダーク&オレンジ味を選びましたが、これは結構普通。たぶんインスタント。でも身体はあったまりました。
このお店、お兄さんがきりもりしていて、他に女性が二人いるのですが、いやもうこの女性たちの働かないっぷりといったら。よくアジアの国の食堂に行くと、女性がちゃきちゃき動き回っている割に男性がのんびりタバコをふかしていたりする光景に出会いますが、このお店はまるで逆。私たちの後にイタリア人らしきグループが入ってきて、片言の英語で何か尋ねていたのですが、お店のお兄さんも英語はちょっぴり苦手らしく苦戦している傍ら、「アタシ知らなーい」と思っているような顔でぼんやりその様子を見ている女性二人。昨日のポンチキ屋で親切にしてくれたお兄さんといい、サンプル数は少ないですが、「ポーランド人男性はマメ男」という定義づけがなされました。本当か?
お店で十分温まった我々は、この後旧市街を巡りました。それはまた次回。