デパートの1階を歩いた時に「空港の匂いだ」と言ったS君は元気だろうか。(誰?)
あの化粧品各社のカウンターから漂う匂いは、確かに免税店の香水が混ざり合った匂いにそっくりだ。私もあの匂いをかぐとちょっとうずうずする。
空港というのは、まさに結界。出国のスタンプをボン、と押されると、そこから先ではもう、その国にいる人ではなくなる。無愛想な入国管理局の人の前に、若干緊張しながら立っているのは、閻魔様の判定を待っているような気分。無機質にページをめくっている管理官が、良い音を立ててスタンプを押してくれる瞬間、ふわっと身体が浮遊するような開放感が味わえると思いませんか?だから海外旅行は止められないっす。
空港内の案内表示は、国際空港であれば、だいたいはどこもわかりやすいものだが(もちろん親切でない国もいっぱいあるけれど、私はまだ致命的にわかりにくい国際空港にあたったことはない)、国内線はそうも行かない。たとえば、以前、ネパールの国内線空港に行ったときには、私はもう目指す飛行機に乗るのは無理と思ったことよ。なぜなら看板・電光掲示板のたぐいはいっさいなく、入り口でおっちゃんが行き先をぼそっと言うのみだった。それも大声で叫んでくれれば良いものを、なりのじいさんに伝達するくらいのボリュームで、行き先をつぶやくのみ。仕方なく、そのおっちゃんが何か言うたびに走って確認しに行った。(インドの鉄道でも同じシチュエーションだった)
しかし、世の中、上手くできているもので、そういうシチュエーションの場合、その場にいる慣れた、そしてヒマそうな人たちが、あれこれ世話を焼いてくれる。チケットを持って不安げな顔をしていると、「あんたの乗る飛行機はまだだから、とにかくそこで待ってろ」と仕切ってくれるのだ。ブラボーヒマな人の多い国。
写真はクアラルンプール国際空港の案内版。この空港は黒川紀章の建築だそうで、明るく、非常に開放的。看板は紺色の地に鮮やかな緑や白抜きの文字・アイコンが使われていて、デザインもとても落ち着いている。新興国の空港は、来るたびに様相が変わっているものだけれど、この空港は最初からモダンだったためか、最初に訪れたときと変わったところがない。
空港から外に出ると、楽しくても、やはり緊張したり、警戒したりするものだ。けれど到着してこの空港の中にいるうち、そして帰国のために戻ってきたときは、ちょっと空港システムで守られてほっとした気持ちになる。