さて、ウフルピーク5895mは、酸素が地上の半分で、気温もマイナス10度以下なので、長居は禁物です。しかし風がなかったこと、コンデションがよかったことから、なんとしてでもパーティ全員で写真が撮りたいと、1時間ほどを過ごしました。そして、名残惜しいけれど、下山の時間です。
ガイドたちは、好きずきに歩き出す私たちをちゃんと見て、塊ごとに分かれてついてくれています。
登りほどではないですが、道は完全な下りだけではないのと、それなりに体力が低下してきているので、普段よりもシンドイです。頭はハイになってるので楽しさでいっぱいなのですが、息はキレるし、氷の上を歩くし、やや思いどおりには足が動きません。これから登ってくれる人もたくさんいて、almost there! と励ますも、登りの人たちに返事をする余裕はありません。私たちも登っているときは、下山者の励ましの声援には心の中でしか応えられなかったもんね。
太陽が登りきっているので、超厚着+カイロを7つも貼っている私は、だんだん暑くなってきます。そこでスタッフバッグの出番です。途中でダウンベストとインナーダウンを脱ぎ、袋に入れてナップザックのよう背負います。また、さすがにトイレにも行きたくなったので、岩陰で用を済ませました。記念すべきキリマンジャロ頂上での野外トイレです。
ちなみに頂上の真ん中にはぽっかりクレーターがあって、雪が積もっています。なんと、そこにテントを貼って宿泊する強者もいるとか。どんな風景が見られるのか、真夜中の頂上や氷河はどんなか、思いを馳せます。なんて余裕はちょっとしかなくて、足を滑らせてクレーターに落ちないよう気をつけて歩きます。
一度通った道は近く感じるもので、ステラポイント、ギルマンズポイントと順調に戻りました。途中何度か休憩を取りながらですが、意外とスムーズに下山できそう、と余裕をかましていましたが、問題はここからです。
登るときは、斜面をギザギザに登ってくるのですが、下山は斜面をそのまま直滑降で歩くのです。歩くというか、富士山の砂走りに行ったことがある方ならそれを想像していただければよいのですが、踏みしめられない角度の斜面ですから、左右の足を順番に砂にまかせてザザーっ、ザザーっとスケートのように降りていく方式です。
これがまたすごくて。
途中岩がゴツゴツしているので、上手く足を動かさないと足先が激突してしまいます。また、この体力低下状態ですから、足がうまくリズミカルに動くわけはない。へっぴり腰でもゆっくり行こうと考え、落ち着いて足を交互に出していたら、むんずと左腕を何者かにつかまれ、肩を持ち上げられました。びっくりして横を見ると、Nさんが私の横にぴったりくっついて、二人三脚の姿勢をとっています。
後で聞いた話ですが、このように二人三脚で足を運ばせてガイドが下山をサポートするのは、キリマンジャロではスタンダードな方法なのだそうです。もちろん、一人でスピーディーに降りられる人は放っておかれますが、私のようにゆっくり行こうとすると、すぐにサポートが入ります。ここでゆっくりしているほど酸素は濃くないし、第一転んで怪我なんて許される場所ではありません。Nさんは私の倍くらいのスピードで、足を滑らせます。ひー速い! と思いましたが、ちゃんと細かい岩に私の足があたらないようにコントロールしてくれています。さすがプロ!
とはいえ、1000m近くの距離をその調子で降りていくのは非常に苦しく、またまだ酸素が足りない場所なので、少し下がると「Moment! 」と言って休憩を取らせてもらいます。じゃないと息がぜーぜーに切れます。自分で運動している自覚はないのですが、Nさんと足を出して下ると、ほんのわずかな距離で肺が苦しくなってきます。やはりここは、人が長くいては行けない場所です。
しかも、周囲に何もないものですから、山小屋は常に見えているんです。見えるのに、全然到着しない。すぐそこにありそうなのに、ちっとも近づかない。この約1000mの砂走りが、永久に続くんかい、と思ってしまうほどの長さでした。また、砂走りが終わっても、こんどは砂利まじりの道をえんえん下ります。ほんとに見えているのに! 着かない!
そしてやっと、キボハットに到着。下では、キッチンボーイがパイナップルジュースを持って待っていました! 私たちが降りていくと、コップにジュースを注いで渡してくれます。このジュースの美味しかったことといったら! そんなにキンキンに冷えているわけでもなく、水場のないハットだからコップも決してきれいではなかったと思うけど、そんなの関係ねえ! 一生忘れられない! またポーターの一人が、ブラシを持って、砂だらけになった足下をパッパッしてくれました。本当にありがたい。
ハットの部屋に入ると、先に着いていたパーティの人たちとも再会を喜び合いました。みんな元気でなにより。しかし我々は本日ここに泊まれるわけではなく、もう一つ下、3720mのところにあるホロンボハットまで下山しなくてはならないのです。
なので、置いてあった荷物を片付けて、食堂でお昼ご飯を食べたらまたすぐに出発しなければならない。意外と元気だよね、なんて言いながら食堂へと向かいました。
だがしかし。
いつものようにスープと煮込みとごはん、パンが出てきたのですが、私を含めてほとんどのメンバーが食事に手をつけられず。目は欲しているのでお皿には取るのですが、一口食べたらもう食べられない。これは、本当に疲労困憊した証拠です。本当だったら、このまま横になりたいところですが、そうも行かず、食事を取らないまま出発となりました。
ここからがまた長い道のりです。来た道を戻るとはいえ、風景は相変わらず素晴らしいので、飽きずに歩くことができましたが、休憩の回数は結構多かったと思います。4000mくらいまでは、風景を名残惜しみながら話しながら歩きましたが、いつまでたっても到着しない。次第に口をきくのも苦痛になり、無言でひたすら歩きました。足下も、砂の道からだんだん砂利が多くなり、疲労がたまった足にはつらい感触です。
そして夕方16時過ぎ。ようやくホロンボハットに到着しました! 行動開始が夜中の0時だったのですから、本日の行動時間は実に16時間。ほとんど歩きっぱなしです。もう、よくがんばりましたよね!
ハット到着が12月30日だったので、キリマンジャロ頂上で新年を迎えようという人たちでごった返していました。そのため、小屋の割当がなかなか決まらず、しばらく外で座って待ちました。もう登頂してきた私たちには、残されたお仕事は本日寝る事、そして明日、麓まで下ることだけです。
小屋は、行きで泊まったキッチン上の広いスペースではなく、6人用の狭い小屋でした。よって、この日ははじめて男女別になりました。すきま風も入り、ベッドもやや祖末ですが、もうどうってことないです。この日の夕食、私は空腹を感じてきて、少しずつ食べられるようになっていました。しかし量は入りません。メンバーも同じような感じでした。ここで持参したインスタントみそ汁などを分け合って飲みました。ここまで疲れると、やっぱり欲しくなったのは日本の味でした。どんなに海外に居続けても、日本食が食べたいなんて思ったことはなかったのに、みそ汁を口にしたとたん、あーーーーと声が出ました。
食事が終わったらトイレに寄って小屋に向かいましたが、キッチン棟から離れると灯りが少ないし、同じような小屋がたくさんあるし、小屋の番号が順番に並んでないしで、道に迷い、このまま戻れないんじゃないかと危惧しました。なんとか無事戻って、ベッドに滑り込んだところ、同じ部屋のメンバーが戻ってくるとき、Nさんに引率してもらったそうです。Nさんは、自分も疲れているのに(下山後一緒に写真をとったりしたけど、疲れていたようで反応が薄かった)、我々がちゃんと小屋を見つけられるように見張ってくれていたのです。隊長からの指令だったそうですが、なんともすばらしいホスピタリティです。
私はこの夜、キリマンジャロに入ってはじめて、トイレにも行かず目もさまさず8時間以上朝まで爆睡しました。
#16 Day6 さらばキリマンジャロ
#17 アルーシャへ移動
#18 Day7 サファリ〜帰国へ
#19(最終回) 持ち物いろいろ
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