#Day3
さて3日目の朝。三時すぎに起床です。オヤジさんが起こしにきてくれましたが、もちろん真っ暗。夜明け前に朝ごはんということで、準備してくださったのです。
布団からのそのそ出た私たち。トイレがてら外に出てみると、うっすら明るくなりつつある空の向こうに、大きな大きな富士山のシルエットが見えるではないですか! その姿は荘厳で、まるで精密な絵のようで、でもリアルで。何度も眺めている富士山であっても、これはやっぱり感動してしまいます。
外で写真撮影をしたり、空を眺めたりしていたら、まずはメシ食えと呼び戻されました。
朝ごはんはまた鍋いっぱいの炊き立てご飯、あっついお味噌汁。そして生卵とおつけもの。いりこや梅干しも並んでいます。お味噌汁が本当にあつあつで、ちょっと味が濃くて、これから歩くための力が湧いてくるようです。オヤジさんの天気予報によると、朝の気温は2度。霜がおりていますが、梅雨の晴れ間にちょうどあたっているようで、今日は快晴。「よかったな〜、つらい顔して出ていかれるより、みんなが嬉しそうに出かけていくほうが、オレも嬉しい!」とオヤジさん。オヤジさんが喜んでくれて、私たちも嬉しいっす! これぞ嬉しいの連鎖です!
日の出とともに出かけるのがベストだから、早く準備しろよ〜、と言われたので、ご飯を食べ終えたらすぐに荷物を片付け始めます。そんなことをしていると、オヤジさんに「何やってんだ、今がちょうどいいときなんだよ〜」と外に促されます。どっちやねん(笑)
しかし、オヤジさんの言う通り外に出てみると、空はオレンジ色がどんどん広がる時間。日の出待ちをします。
山の間から太陽が覗いた時には、本当に感動。日の出は何回か見ていても、あからさまに山間がオレンジ色に染まっていき、その真ん中からまんまるの太陽がずずーっと登ってくる風景、はじめてみたかもしれません。
しばらく日の出ショーを堪能したら、今度こそ本当に準備をしなければなりません。今は超寒くても、今日は他のどの日よりも気温が上がるはずなので、最初から薄着で出かけることにしました。薄着といっても、シャツ着て、フリース着てって感じです。ただもうフードは不要で、帽子は日よけ用のものを使います。やっとレインウェアからおさらばです。
宿を出るときにも、オヤジさんはずっと見送ってくれました。一路平安とか、Good luckとか、世界各国の言葉で見送ってくださるインターナショナルっぷり。登山者は、外国人の方も多いのでしょうね。そして、私たちが進んでいくと、外でテントを張っているグループに「おーい、植物の上に荷物をおくなー、植物だって生きているんだぞ−!」と注意していました。あとで聞いたところによると、私たちのグループの副隊長に、あのグループに注意しなくちゃいけないけれど、あんたたちが楽しく出かけていくだろうから、行ったあとにする、って言ってたそうです。なんかやっぱりいいなぁ、オヤジさん。このあと、登山が終わって帰りのバスの中で、オヤジさんから副隊長に電話が入り、みんな無事おりたかー? って聞いてくださったそうです。いいなぁ! オヤジさん!
私たちが登山を終えて、ウイークデーに普段の生活や仕事に戻ったあとも、オヤジさんはあの山の上で、甲斐犬たちと一緒に暮らしているんだろうな。今この瞬間も。私はそういうことを考えるのがすごく好きで、地球上の訪れたことのある場所の人たちが、その人たちの常識や習慣をもって、今も同じ時間を過ごしているってことを思うだけで、ちょっと生きる力が湧いてくるような気がするんです。今回訪れたことで、また想いを馳せる場所が増えました。オヤジさん、マイペースで、ずっとそんな感じでいてほしいなあ。
さて話を戻して、まずは西農鳥岳へ登ります。今日は天気がよくて、遠くの景色を楽しみながらの登山です。振り返れば、私たちが歩いてきた、間ノ岳も全貌が見えます。そして頂上に行けば、真っ白だった北岳までが見えるはず! お味噌汁の力もあって、気温もあがって、身体がどんどんあったまってきます。
岩場を登りきって、歩いて歩いて、まずは西農鳥岳に登頂です! ここまでくれば、あとは稜線を歩いて農鳥岳へ行くのみ。そしてそのあとは、ずっとずっとの下りが待っています。
西農鳥岳の山頂は、360度のマウンテンビュー。富士山はもちろん、北アルプス、八ヶ岳、様々な山が遠近グラデーションになって見えます。北岳・間ノ岳でも天気がよければきっと別の角度からのビューが楽しめたのでしょうが、いえいえ悪天候だったからこその、フィナーレでの好天を噛み締めるように眺められるというものです。負け惜しみなんかじゃないわ!
そして岩場のアップ・ダウンを経て、最後の山、農鳥岳山頂です。狭い山頂ですが、やはりまだ3000mを超えているので止まっていると身体が冷えてきます。北岳・間ノ岳をバックに記念撮影をし、景色を堪能したら、いよいよの下山です。
富士山にも少しずつ雲が出てきました。ちなみに今年は富士山の雪が少ないそうで、農鳥から見ても上のほうが白くありませんでした。7月に予定している富士山登頂、暴風雨で断念が2年続きましたから、今年こそは登頂させてほしいと心の中で祈ります。下りの道は狭く、急激に下がっていきます。
下がれば下がるほど、気温はあがって蒸し暑くなり、疲れた身体にとってつらいコンデションになってくるものです。しかし降らなければ帰れませんのて、がんばって歩きます。途中、ロープ場や鎖場がいくつもあり、足元が滑りやすいところが多く、自分も転びそうだし、落石も起こしてしまいそう。しかも道はどんどん狭くなり、一歩間違えると滑落か、、という場所も少なくありませんでした。
お昼は大門沢小屋のお庭でいただきます。メニューはインスタントのカレー。お水を入れたアルファ米を、お湯で戻したカレーと一緒にいただきます。辛くて美味しかったわ。やはり、こういうときは、味の濃いものが元気でます。正直、この時点でも膝がカクカクしてきていたし、最後まで無事降りられるかちょっと不安ではありました。歩けなくなることはないにせよ、狭く、片側が崖になっている道が多いので、足をしっかり踏みしめていないと滑落してしまうからです。しかしこの休憩でちょっと体力回復、おやつもいただいて再び歩き出します。
休憩のあとは少し身体が重くなるもので、何度か転んでしまいました。厳しかったアグン山の下りを思い出します。ちゃんと足場を確保しようと意識しすぎたせいで、変な歩きかたをしていたようで、足の裏に豆ができて、しかも潰れてしまったのがわかりました。しかし痛いことは我慢できるものです。膝もサポーターをつけて、ゆっくりマイペースで歩きます。とにかく長い長い下りでした。
しかも、下りの途中には、サバイバル極まりない河川の橋がいくつもあって。半分落ちた丸木橋とか、傾いた梯子橋とか、とにかく普通に渡れる橋がほとんどありません。ロープがはってあるのが幸いでしたが、足が疲れているので踏み外しそうで、とにかく慎重に、ゆっくり渡りました。
そして最後に、吊り橋が見えました。ああやっと文明的な橋になったと思いきや、この橋が最も恐怖でした。今までの丸木橋は、それほど高い位置にあるわけではなく、川自体もそんなに大きくなかった。もちろん川に落ちると怪我をする可能性はありながらも、ジャンプして飛び降りられる程度の距離でした。
しかしこの吊り橋は、うんとうんと下遠くに広い川が流れていて、しかも橋の幅は両足そろえたの+α。錆びた鉄板を横に二つ並べただけだし、それをワイヤーでとめているだけ。ところどころガタガタ傾いているし、横に柵なんてないし、一度に渡れるのは定員2名だし・・・。足がガクガクに疲れている最後にこれは本当に恐怖でした。
この橋を経れば、あとはちょっと歩いて発電所に出ます。これで登山自体は終わりで、一路温泉に向かいました。この頃になると、すでに歩いてきた山の上には厚い雲がかぶっていて、天気が悪くなっていることがわかります。本当にオヤジさんの言ってたとおり、ちょうど梅雨の晴れ間のグッドタイミングだったということです。
あとは温泉に入って、バスで一路東京まで。バスの中ではもちろん爆睡でした。
アルプス初体験でしたが、この縦走はやっぱりハードでした。何の訓練よ、と思わせられた前半と、オヤジさんとの出会い、そして後半の景色とサバイバルな下山。私の中では、海外登山と並んで、思い出に残る登山経験となりました。決してラクではないけれど、まだ見ていない景色があるので、またの機会には縦走に再度チャレンジしたいと思います。