#Day2
二日目の朝も暴風雨でした。雨は大分小降りになりましたが、風がねえ。
朝ごはんを食べた後、予定出発時間を少し遅らせることになりました。本日の行程はかなり余裕があって、予定では朝の7時前に出発して、日本で二番目に高い北岳を登頂したあと、日本で三番目に高い間ノ岳を経て、農鳥岳のふもとにある農鳥小屋に泊まるというもの。農鳥小屋には、お昼ちょうどくらいに到着する予定です。
それならもっと遅くに出発しても良いんじゃないかって?
いえいえそれはなりませぬ。農鳥小屋は、仙人のようなオヤジさんがお一人でやってらっしゃいまして、このオヤジさんが、話に聞くと、むかーしながらの山小屋のおやじさんで。山を舐めた行為をとっていると、雷オヤジに変身するのだそう。聞いたところ、オヤジさんの逆鱗に触れるのは以下の三点。
1)山小屋への到着時間が午後3〜4時になる。
山の夕暮れは早く、午後から天気も変わりやすいので、夕方になれはなるほどリスクがあがります。
2)山小屋からの出発時間が遅れる。
日の出とともに出発するのが理想。というのも、農鳥岳から下山する道は険しく長く、ぼやぼやしていると天候が変わって遭難のリスクがあがるから。
3)軽装での登山。これは言わずもがなです。
私たちの隊長の前振りもあって、今日到着の山小屋についてはみんな興味津々・戦々恐々。
結果的には1)〜3)をクリアしたこともあって、まめまめしく世話をやいてくださったオヤジさんは人気沸騰、非常に素敵な滞在になったのですが!
さて、話を戻して、私たちの出発時間は7時半まで延期となりました。まずは小屋の中で仮眠して体力を温存です。そして出発時刻近くになって小屋から外に出てみると、なんと厚い雲の間から青空が覗いているではないですか!
結果的には、つかの間の晴れ間だったのですが、天気図によるとこのあと高気圧がやってきているということで、この雲が去った後に期待大です。
朝早くに登頂に出かけたほかのチームの方が下山してきたので、様子を聞いてみると、やっぱり真っ白で何も見えなかったとのこと。しかも彼らはヘルメットにロープとハーネスまでつけています。我々はレインウェアのみですが、まあ大丈夫でしょう。雨がほぼ止んでいるので気分は上々。小屋の前で記念撮影したりで朝から元気です。
その行程はといえば、出発から急坂を登ります。朝イチだし標高も高くて寒かったけれど、歩いている間にどんどん暖かくなってきました。ゴツゴツした岩を登りに登って、まずは北岳山頂に無事到着です! 富士山に登頂できていない私にとっての、現在のところ日本の最高地点に到達! です。
山頂は真っ白で何も見えなかったのが本当に残念。晴れていれば大きな富士山が見えるそうなのに! しかしこんな日もある! ということで、次の目的地は稜線を歩いての間ノ岳です。
風が強い中を歩くのは、本当に体力がいることです。ましてや、景色が見えているならまだしも、周囲は真っ白で何も見えない=この先の行程が読めないところを、目の前に出現する道のままに登ったり降りたりを繰り返します。梯子もたくさんあり、道も狭くて、岩はすべりやすいし、なかなか神経を使いながらの登山でした。次の岩場を登れば山頂かと思えば、また下る道に続いていたりで、エンドレスかと思われるようなアップダウンが続きます。ひー。
途中、雨に濡れた花々が目に入るのがせめてもの慰めでした。景色を眺めながらなら楽しいはずの稜線歩きは、白いガスの中の彷徨い歩きに変わってしまい、この時間が永遠に続くかと思われました。。
途中にある、北岳山荘の前でトイレ休憩。ここで行動食を食べて、体力を回復させます。北岳山荘の前には雪が積もっていました。この小屋は、10名未満は予約不要とのことで、人気の山小屋のようです。
北岳山荘を経て、また白い道を登ったり降りたりしながら、約1時間で中白根山(3055m)の山頂を越え、そのあとまた約1時間でようやっと、間ノ岳山頂に到着でございます〜! ふー、ハードだった! もちろんここでも白いモヤの中で景色はまったく見えませんでしたが、今日の目的を達成できたので、それだけで元気がわいてきます。
ゆっくりする間もなく、間ノ岳から農鳥岳方面へは岩場を下ります。ここいらへんは、岩にペンキで「農鳥小屋→」なんて書きつけてあります。赤や黄色でペンキがしたたった跡のあるそれは、まるで呪い文字のよう・・・。
大きな雪渓を経て、岩の道をずんずん下りに下っていき、また登ったり下りたりを繰り返していると、突然! 本当に突然に! ぱーっと雲がはけて周囲の景色が見えました。な、なんと、まるでマチュピチュのような山間の景色が広がっているではないですか! (マチュピチュ行ってないけど) ここは本当に日本!? と思うような、壮大な景色が目の前に。これが南アルプスだったのか!
景色が見えてきたら、だんぜん歩く気分があがります。写真を撮りながら、岩場を越えながら、素晴らしい景色を堪能。ああ、間ノ岳より前の、あの厳しいアップダウンも、こんな景色が見えていたらサイコーだったんでしょうね! しかし山登りは時の運。白いモヤの中をやみくもに歩く経験も、選んでできるものではない。それはそれで、経験のひとつとして宝になりましょう。
農鳥小屋が眺められる広い場所で休憩がてらお昼です。肩ノ小屋で作ってもらったお弁当は、この低気温の中で凍らんばかりに冷えていて、正直味わうという感じではありませんでしたが、山の中の貴重なお食事ですのでできるだけ食べました。その丘から見下ろす農鳥小屋は、まるでアルプスの少女ハイジが住んでいるような赤い屋根の山小屋。そこには噂の仙人が住んでいるとのことで、期待と不安が両方ともふくらんできます。
農鳥小屋に到着。まず最初に迎えてくれたのは、黒くたくましいお犬様でした。オヤジさんの飼っている猟犬だそうで、種類は甲斐犬というのだそう。小型室内犬なんて、尻尾を巻いてピューと逃げていきそうな、オオカミのような風体の猟犬ですが、名前がかわいくて「もみじ」と「カラブラン(=黒い嵐)」。我々を不審者と思ったようで、最初はワンワン吠えまくってオヤジさんに怒られていました。番犬としても機能している!
そのオヤジさん。お昼ちょっと過ぎという優秀な時刻に到着した私たちをにこやかに迎えてくれ、また、みんなで「おとうさん、おとうさん」と懐いていったこともあって、あっと言う間に仲良しに。親切、かつ楽しく、お話好きで、本当に素敵なオヤジさんでした。決して設備が新しくはない、本当に昔ながらの山小屋ですが、広さも十分、布団もひとりひとつ用意されていたし、寒いからといってこたつ(電気じゃなくて中に燃料を入れるタイプのもの)やストーブも用意してくれるし、そのストーブの上でお湯を沸かしてコーヒーを飲ませてくれたり、ビールもたくさん用意してくれて、思わずオヤジさんに何かしてあげたくなって、バンダナをお土産に買ってしまいました。
ネットでは小屋やオヤジさんの悪評も見られるけれど、アジアの国々を旅してきた私はたいていのトイレはへいちゃら。ここんちのは、穴が空いたところに他人の落し物が見えて、鍵もなく扉も穴が空いているようなトイレだったけれど、電気や設備のない山の中はこんなもんで十分です。おやじさんの作ってくれた夕ご飯も、塩漬けの山菜を戻して、きのこと一緒に煮たものや、大釜で炊いたごはん、具だくさんの味噌汁など、すべて保存食になる前からオヤジさんの手作りで、「食物繊維がいっぱいで女性には特に良いんだよー」なんて言ってくれます。本当に暖かくて美味しかった。
ネット上では、食器の状態なんかをクドクド書く人もいましたが、山の中では水も貴重、自然環境を守るためには人間側もデリケートさを少しは捨てるべきと私は思います。お風呂がなくても、トイレがなくても、綺麗な水がたくさんなくても生きていけるサバイバルな心身を作ることって、現代の日本の都会では必要ないかもしれないけれど、私は世界の多様性を愛する立場として、過剰な衛生礼賛な感じがどうにも苦手なので、このオヤジさんの心のこもったお食事は、大変美味しく、ありがたくいただきました。本当は食欲が落ちていて、全部食べきる自信はなかったけれど、お気持ちと暖かいごはんを食べられることが、本当にありがたかったので、がんばって完食しました。これが結果的に翌日の体力保持につながったんだと後になって思います。オヤジさんのトークを聞きながらのお食事も、お台所の風景も、本当に忘れられないものになりました。
夕食の後は、歯を磨いて早々にお布団に入ります。雲が出てきたので、夕日のご褒美もなし。いちおう、自家発電のランプはついていたのですが、みんな疲れていたので、なんと7時前には布団に入って寝てしまいました。私はちょっと寒かったのですが、こたつのそばだったので、ちょっと足を入れながら寝たら、体ごとぽかぽか。夜じゅうたびたび目を覚ましながらではありつつも、明日の天気を祈って眠りについたのでした。
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